このコーナーはみなさんから寄せられた質問に答えた内容を紹介したものです。練習の参考になれば幸いです


相談  私の所属する某クラブチームは、5月の国体予選を目指し、練習しております。ポジションは、45度です。
私は3年ほどブランクがあります。3年前は国体の選抜選手でした。その経歴及び、1部リーグの大学に在籍していたこともあったので、過剰な期待をされているので期待にこたえるべく練習しているのですが、1つ問題点があるのです。左足首の靭帯、及び左膝の半月版、前十字靭帯に古傷を抱えているのです。
 デスクワークの仕事の為、筋力も衰えたことに加え、体重も3年前に比べ10キロほどふえてしまったので、ちょっとハードな練習をすると足首や膝が痛み、かばおうとして別の部分に負荷がかかり故障してしまいます。
 水泳以外などで、膝や足首に負担をかけずに効果的なトレーニングをする方法があるのであれば、ご教授頂ければと思いメールさせていただきました。
 また、膝や足首を筋肉アップでカバーできるのであれば、その筋力アップのトレーニング方法もご教授頂ければ幸いです。

 この質問は私の専門外ですので、的を得た回答はできません。幸いスポーツドクター志願の友人がいますので、彼に教授を願ってみたところ、快く引き受けていただきました。彼の原稿を、ここに紹介したいと思います。

 まず,関節に負担とならないトレーニングに関しては,基本的には水泳や自転車が一番だと思います。私達は傷害後のリハビリテーションやコンディショニングでよくプールを利用しますが、泳ぐというより歩く (水中を歩きながらプールを往復)方が多いです。ただ歩く場合もありますし、大股で歩いたり、後ろ向きで歩いたり、ゆっくりサイドステップやクロスステップをしたり、速めに歩いたり、時には走ったり、ランジウォークをしたりもします。水中は当然浮力があるのですが、体の水中につかってる部分が多ければ多いほど、関節にかかる体重は少なくなります。一方、動くときには体の水中につかってる部分が多ければ多いほど抵抗が大きくなるというのも事実です。この現象を利用して、関節にかかる負荷、トレーニングの抵抗を調節することができます。例えば,温水プールの子供用のゾーンを利用したトレーニングの場合、成人男性ですとだいたい水面がお臍のあたりにくると思います。そのまま歩けば、比較的関節に体重がかかりますが、歩く際の水からの抵抗はすくなくて済みます。もし運動時に抵抗を強くしたければ水面が胸までくるくらいまで膝を曲げて歩くようにすればいいわけです。
 水中では水圧により末梢の血液が心臓に戻りやすいという生理的現象も得られることから、軽めの運動と併用することで、疲労回復にも役立つというメリットもあります。また、ただ浮いているだけでも浮力によりリラックス効果も得られます。
 ストレングスという観点からいうと、水中ウォーキングだけではものたりないかもしれません。そんなときにはビート板を股に挟んで手だけで泳ぐ(クロール,平泳ぎ,バタフライ)、また逆にビート板を手にもってバタ足だけで泳ぐなどをしてみてください。心肺機能的にも筋力的にも辛いトレーニングになると思います。
 ただ注意してほしいのは、あなたは膝 (前十字靱帯) を痛めているということですから、平泳ぎの足の動きはやらないでください。まれにですが平泳ぎの足の動きで膝をひねる危険性があります。
 ウエイトをかついだ、いわゆる筋トレが関節の負担になるかといったら一概にはそうではないと考えます。むしろレッグエクステンション(椅子に坐った状態で膝だけを伸ばす運動)より、地に足をつけてスクワットをする方が、筋の収縮によって関節が保護され、安全であると言われているくらいです。特に膝関節前十字靱帯損傷の既往をもつ選手にとっては、レッグエクステンションの動き自体が関節にとって悪影響であると言われているため、注意が必要です。
 スクワットは股関節を90度、膝関節を90くらいまで曲げるくらいの形で行う (ハーフスクワット) のが一般的です。膝をあまり曲げすぎると関節にとって悪影響です。初めは自体重からはじめて、徐々に重りを重くしていってください。重りが軽い分には関節に悪影響になることはないと思います。

 ここで突然ですが,筋力について私の考えをのべさせていだきます.
一般に筋力トレーニングというと重いおもりを持ち上げることを想像しますが、筋力,とりわけハンドボールのような球技にとっては、重いものを持ち上げることこそが筋力トレーニングではないと考えます。
 わたしが考える筋力というのには3つの側面があります.
一つ目は絶対的な筋力、つまり重い物を持ち上げる筋力です。
二つ目が瞬間的に発揮できる筋力です。どんなに力が強くても瞬間的に発揮できなければ意味がありません。ゼロストップの瞬間、フェイントを切る瞬間、ジャンプする瞬間、ボールを投げる瞬間、ありとあらゆる瞬間に莫大な力が出せてこそ、素速い動き、ダイナミックな動き、高いジャンプ、スピードのあるボールが投げれると思います。
三つ目が筋力を発揮させるためのサポートとしての筋力です。例えばジャンプを例にとってみるとジャンプする瞬間にはもちろん膝関節の筋肉が働くことが予想されるのですが、,その筋力を発揮させるためには体幹筋力により体を安定させたり、股関節で脚を安定させたり、足関節で足部を安定させ、それぞれの部位で爆発的なパワーを発揮させる必要があるわけです。
 以上三つのことを考慮すると、高く跳ぶためには、まず自分の体重をコントロールするだけの十分な筋力 (全体的に) を有し、それをジャンプする瞬間に発揮できるよう全身でコーディネートされることが必要になってくると考えられるわけです。


 実際のトレーニングを考えると・・・

 まず一つ目の絶対的な筋力をつける方法は皆さんが一般的にやっているようなスタイルの筋力トレーニングでかまわないと思います。あなたは関東1部にいらっしゃったとのことですから、きっとご存じのことと思います。スクワット,ベンチプレス,バタフライ,デッドリフト,アームカール,などを12回くらい出来る負荷を目安に10〜12回を3セットという感じで初めてみてください。トレーニング初期は負荷をこの目安よりも軽めに設定して様子をみて負荷を増やしてください (これはどの種目にも言えることです)。

 次に二つ目の瞬間的に筋力を発揮させるための方法は、一つ目のトレーニングと若干変わります。このときには負荷は軽め (余裕で20回はこなせるくらいの負荷) から初めてください。膝関節を意識した場合のトレーニングを考えるとスクワットジャンプやステップアップという項目が適当かと思います。
 スクワットジャンプは文字通りスクワットの体制からジャンプする項目です。バーをかついだハーフスクワットの体勢から瞬間的にジャンプして着地します。これを1回1回一つのジャンプに集中して行うパターンと連続して10回位繰り返すパターンがあります。後者のパターンはジャンプの接地時間をなるだけ短くして次のジャンプに移るようにします。ですから必然的に前者のパターンにくらべ着地の瞬間に膝を曲げる角度は浅くなります。イメージとしては足裏で地面をはじくようなイメージです。前者と後者の両方を行うことをお勧めします。
 次にステップアップは踏み台昇降運動のウエイト付き版といった感じです。片足をのせると膝が90度くらいになる段 (階段よりすこし高い程度) に片足をのせ、もう片方の足を地面につけて重りをかついで立ちます。その状態から段にのせている脚に力を入れ段上に登るように立ち上がり、地面についているもう片方の脚を引き上げます。丁度ボールをもらって助走をつけてジャンプするときのような感じです.この運動も連続して行うパターンがあります。今度は重りは持たず、開始姿勢は前者と同じです。その状態から段上の脚を踏ん張りジャンプし空中で脚を入れ替え,逆の脚を段上へ最初にのせてた脚を地面に着地させます。そして着地した瞬間にまた跳び上がり脚を入れ替え繰り返します。上半身をうまくつかって高く体を引き上げるのがコツと思われます.
他にも軽めのウェイトをかついで、ステップを切ったり、ゼロストップを繰り返したりすることで、瞬間的に大きなパワーを出すトレーニングになると思います。
 ただ注意しておきたいのが、このトレーニングはベースとしての絶対的筋力が不足している場合、施行時の姿勢が悪い場合、重りが重すぎる場合、傷害につながることがありますので気をつけてください。

 最後に三つ目のサポートする筋力をつけるための方法 (というより考え方) を紹介します。ボールを投げたり、跳んだりするのは手や足が行うことと捉えがちですが、それらがしっかり働くためにはそれらをつなぎ止めておく、体幹部の筋力がとても重要になってきます。腹筋背筋はもちろんのことですが、ここで特にとりあげておきたいのが股関節周辺の筋肉です。例えばゼロストップの瞬間、次に素速く動くためには重心が後ろにいってはいけません。後ろにあるということは体幹を前に維持するだけの体幹の筋力が弱いか、瞬間的に出せていないかのどちらかではないかと考えます。またストップの瞬間に体が流れないためには大腿部の筋に加え、内転筋 (内股の筋) と殿筋 (お尻の筋) によってしっかり脚を安定させる必要があります。これらの筋肉はストップ時のみならず、,その次に横に大きく、縦に強く動くためには、うまく働かせる (瞬間的に力を発揮) 必要のある筋肉であると考えられます。
 股関節周辺をトレーニングするのに使う運動にレッグランジ、サイドランジという動きがあります。直立の姿勢から片足を約1メートルくらい前に踏みだし、もとに戻る運動がレッグランジ (フロントランジ)、直立の姿勢から今度は片足を横に踏み出すのがサイドランジです。これらの運動も自体重、もしくは軽めの重りから初めてください。1セット20回程度が目安でしょうか。
 殿筋をトレーニングするために私が用いている運動は、横向きで脚を挙げる運動です。おばさんがテレビを見ながら横になって脚を挙げているあれです。体の軸はまっすぐにして片方の肘から体側を地面につけるように横向きに寝ます。その状態から上にある脚をまっすぐ上げます。この運動でお尻の外側の筋肉 (中殿筋) がトレーニングできます。うつ伏せの状態で脚を上方へ挙げるとお尻の真ん中等 (大殿筋,ハムストリング) がトレーニングできます。これには脚に砂嚢をまいたり、チューブを巻いたりして負荷をかけることがあります。

 上述のトレーニングは競技力向上の為のトレーニングとしてだけでなく、特に膝関節傷害を負った選手のリハビリテーションメニューとしてもよく用います。ただ、さきほども書いたとおり,ダイナミックな運動をともなう種目は、ベーシックなトレーニング (スクワット,脚挙げ運動) で充分にトレーニングし、痛みが伴わないことを確認したうえで行います。もちろん、膝に関係ない体幹、上肢のトレーニングはバリバリやります。

 前十字靱帯損傷の選手に特に鍛えておいて欲しいのはハムストリングスという大腿部裏の筋肉です。ハムストリングスが働くことによって前十字靱帯損傷選手の不安定な膝を安定に保つことができます。もちろんハムストリングスに十分な筋力 (外力によって膝がずれようとするのに対抗するくらい) が必要ですし、それを瞬間的に発揮させることが重要なことは前述したとおりです。
ハムストリングスを鍛えるには先ほど述べた、うつぶせの脚挙げ運動。スクワット、レッグランジ、の他、レッグカールという運動も重要です。先ほど述べましたが特に前十字靱帯損傷の選手ではレッグカールの逆の動きであるレッグエクステンションは頻繁におこなわないよう注意してください。

 ここまで膝関節についてを中心に書いてきました。足関節についてのリハビリトレーニングは、チューブを用いて足首のいろんな方向の動きに抵抗を加えるパターンが一般的です。後はカーフレイズ、トゥレイズといった種目で足首周囲の筋力を強化していきます。コーディネーション的なトレーニングでは先ほどのジャンプ系の動きを用いる他、片足立ち (閉眼,開眼) でバランスをとる運動、またバランスをとりながらキャッチボールをするなどして難易度を高めていく方法などがあります。

 あなたの場合,なんといっても体重オーバーが一番のネックだと思います。筋力トレーニングの前に有酸素トレーニングで体重 (体脂肪) 減を図るほうに力を注ぐことが傷害を防ぐ意味では近道だと思います。もし準備期間が少ないのであれば、有酸素トレーニングと筋力トレーニングを並行して行うことをお勧めします。有酸素トレーニング種目ですが、体重オーバーの場合ランニング動作そのものが関節傷害を生むことがありますので、注意してください。最初は水泳、自転車、ウォーキング等である程度体重を制限してからランニングに移行するのがいいと思われます。有酸素トレーニング開始から20分たたないと体脂肪が主体的にエネルギーとして変換されないという話もありますから、最低20分〜30分は有酸素トレーニングを行っていただきたいと思います。

 以上、参考になりましたでしょうか?
なお、このトレーニング方法はあくまでも一例であり、私の考えでありまして、ハンドボールの競技力向上のため、傷害予防のためには、これが全てではないということを分かっていただかなければいけません。 あまり先入観を持たせないように配慮したつもりですが、そういう見方をしていただければ幸いです。